歯周病をモデルとした骨免疫学の研究
歯周病は,起因細菌の感染により歯の周囲組織(歯肉と骨)が損傷される炎症性疾患です。つまり,病原細菌とヒト免疫のせめぎ合いの過程で,免疫側が破綻した際に,歯周病は発症すると概説できます。今の歯科技術では,骨吸収が生じた場合,歯周病の完治は困難となります。MIDとCAOSでは,歯周病の発生メカニズムについて,骨組織における免疫の破綻に着目し,分子レベルで統合解析を始めました。
図1.歯周病をモデルとした骨免疫学の研究
はじめに,歯周病患者の歯肉に多く発現するWnt5a分子に着目しました(図2の赤色)。Wnt5aはヒトの細胞や骨に作用し,それらの働きを調整するタンパク質です。そして,歯周病を含む炎症反応との強い関連が報告されています。
歯肉炎組織
健康な歯肉
図2.歯肉上皮層に限局して産生が認められるWnt5a
次に着目した分子のsFRP5は,Wnt5a 受容体に相同性を示し,Wnt5a の働きを阻害します。ヒトの歯肉組織を蛍光顕微鏡で調べたところ,健康な歯肉ではWnt5a
の発現は低く,sFRP5分子が多く発現していました(図3の緑色)。
歯肉炎組織
健康な歯肉
図3.健康な組織に多く発現が認められるsFRP5
さらに,歯肉上皮細胞を単離培養し,歯周病原性細菌の内毒素LPSを添加した結果,Wnt5aの発現は亢進し,一方でsFRP5の発現は抑制されました(図4)。
図4.細菌成分によりWnt5a転写量が上昇し,sFRP5は減少する
続いて,歯周病を発症させたマウスの歯肉にWnt5aとsFRP5を接種したところ,sFRP5により骨の吸収は抑制されました。さらに現在では,sFRP5は炎症組織中のWnt5aを抑制するとともに,破骨細胞にも直接作用する可能性を明らかにしています(図5)。
図5.sFRP5は、歯周病による骨の吸収を抑制する
今後は、sFRP5の歯周病治療薬としての可能性を検索するとともに、Wnt5aを起点とし骨芽細胞=破骨細胞系に作動する分子群ネットワークを解明していく予定です。
詳細:以下の学術論文を参照してください。
- Tamura, H., Maekawa, T., Domon, H., Hiyoshi, T., Hirayama, S., Isono, T.,
Sasagawa, K., Yonezawa, D., Takahashi, N., Oda, M., Maeda, T., Tabeta,
K., and Terao, Y.: Effects of erythromycin on osteoclasts and bone resorption
via DEL-1 induction in mice. Antibiotics, 10: 312, 2021.
- Tamura, H., Maekawa, T., Hiyoshi, T., and Terao, Y.: Animal model of periodontitis
― Analysis of experimental ligature-induced periodontitis model in mice
―. Methods Mol. Biol.: Periodontal Pathogens (published by Springer Nature),
2021;2210: 237-250, 2020.
- Maekawa, T., Tamura, H., Domon, H., Hiyoshi, T., Isono, T., Yonezawa, D.,
Hayashi, N., Takahashi, N., Tabeta, K., Maeda, T., Oda, M., Ziogas, A.,
Alexaki, VI., Chavakis, T., Terao, Y., and Hajishengallis, G.: Erythromycin
inhibits neutrophilic inflammation and mucosal disease by upregulating
DEL-1. JCI Insight, 5(15): e136706, 2020.213-222, 2019.
- Maekawa, T., Kulwattanaporn, P., Hosur, K., Domon, H., Oda, M., Terao,
Y., Maeda, T., and Hajishengallis, G.: Differential expression and roles
of secreted frizzled-related protein 5 (Sfrp5) and the wingless homolog
Wnt5a in periodontitis. J. Dent. Res., 96: 571-577, 2017.
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