新潟大学大学院医歯学総合研究科微生物感染症学分野新潟大学微生物感染症学分野

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ヒノキチオールを用いた肺炎治療の研究研究内容-7

ヒノキチオールを用いた肺炎治療の研究

要点:ヒノキチオールは,マウス肺炎モデルにおいて体内の肺炎球菌を殺菌し,さらに肺組織の病的な炎症や損傷を抑制する治療効果も発揮しました。

 新型コロナウイルスの出現以前から,肺炎は日本人の死因の第3位であり(誤嚥性肺炎を含む),毎年10万以上の方が亡くなっています。主な肺炎の原因菌は肺炎球菌ですが,抗生物質の頻用が一因となり,年々,抗生物質が効きにくい耐性菌が増加しています。抗生物質は細菌感染症の特効薬であるため,耐性菌の増加は肺炎の治療において大きな障害となってきています。

 「肺炎」は新型コロナウイルスとともに着目を浴びていますが,原因となる微生物は一種類ではありません。「肺」に肺炎球菌等の細菌や各種ウイルスが感染し,次いで肺組織の破壊や「炎症」が引き起こされる二段階のステップを経て発症します。本研究では,ヒノキチオールの肺炎球菌(耐性菌を含む)に対する殺菌作用,ならびに生体の組織傷害・炎症を抑制する作用の二系統の治療効果について調べました。

 はじめに,マウスに肺炎球菌(耐性菌を含む)を感染させ,その後にヒノキチオールを投与し,マウス生体内での殺菌作用を調べました。実験後に,肺胞中の肺炎球菌数を培養法にて算定したところ,ヒノキチオール投与により,約80%の菌数減少を認めました(下図)。

薬剤耐性 肺炎球菌感染マウス

 次いで,ヒノキチオール投与群の肺組織を検鏡したところ,感染細菌を示す濃紫色の塊状沈着が減少していました(下図)。また,肺炎球菌感染マウスと比較し,肺傷害および炎症の著明な減少も観察されました。以上の結果から,マウス肺炎モデルにおいても,ヒノキチオールは肺炎球菌(耐性菌を含む)に殺菌作用を発揮することが示されました。それに加え,肺組織の損傷や炎症を抑えることも示されました。

PBS

薬剤耐性 肺炎球菌+ PBS

薬剤耐性 肺炎球菌+ Hinokitiol

 病原微生物が肺に感染しても,それだけで肺炎は発症しません。感染に伴い,肺組織に自己傷害や病的な炎症等が生じることで引き起こされます。下図の実験では,肺炎球菌の感染時に免疫細胞から漏出し,自己組織への傷害作用を呈すエラスターゼ(生体内の酵素の1つ。本来は免疫細胞内でのみ働く。細胞外へ漏れた場合は,自己組織を傷つけてしまう)の分布を蛍光顕微鏡で観察しました。下図で示すように,肺炎球菌感染マウスの肺胞では,細胞核(青色)の周囲に多量のエラスターゼ(緑色)の分布,すなわち「細胞外への漏れ」が検鏡されました。一方,ヒノキチオール投与群では,エラスターゼ(緑色)の「細胞外への漏れ」の抑制が認められました。さらに肺における酵素活性の測定実験から,ヒノキチオール投与にて「細胞外へ漏れた」エラスターゼの活性が約90%減少することも定量されました。以上の結果から,マウス肺炎モデルにヒノキチオールを投与すると,エラスターゼ依存性の肺組織傷害を抑制することが示唆されました。

PBS

薬剤耐性 肺炎球菌+ PBS

薬剤耐性 肺炎球菌+ Hinokitiol

 肺炎が重症化する要因として,病原体の感染により炎症が過剰に引き起こされ,自己組織を傷害することも推察されています。具体的には,炎症性のサイトカイン(免疫調節タンパク質)が過剰に産生されてしまい,病的に過大な炎症が誘発され肺組織が損傷されてしまうことが挙げられます。そこで,マウスの肺炎モデルにヒノキチオールを投与し,肺胞中の炎症性サイトカイン(IL-1β,IL-6,TNF等)の濃度を測定しました。その結果,ヒノキチオール投与マウスでは,肺炎球菌感染に伴う炎症性サイトカイン産生が適切に抑制されることが確認されました。以上の結果から,ヒノキチオールは,肺組織における病的な炎症を抑制する作用もあると示唆されました。

詳細:以下の学術論文を参照してください.